さて、これまでの説明だけですと、この「悪魔の装置」を使って、分子の熱運動から仕事が、
いくらでも、無尽蔵に取り出せるかのように錯覚されるかもしれません。
しかし、実はそんなことはありません。
ここに図解した「悪魔の装置」は、第二種永久機関には成り得ない のです。
実は、これまでの説明には、1つ、重要な要素が欠けています。
その重要な要素とは、変化の起こる向き についてです。
これまでの図中では、信号や隔壁の進行方向を矢印(→)によって図示してきました。
しかし、この矢印の向きは便宜的なものに過ぎません。
物理的には、図示した矢印とは反対向きの運動も起こり得るはずです。
ここで紹介した「悪魔の装置」は、全て往きも復りもありの、可逆な部品から構成されています。
信号は右にも左にも同じように走ることができるし、隔壁もX軸の正方向、負方向、どちら側にも動きます。
つまり、これまでの説明の、熱から仕事への変換の向きを全て逆にして、
仕事から熱への変換も同じように説明することができるのです。
この「悪魔の装置」が本当にマックスウェルの悪魔に成り得るかどうかを見極めるにあたって、
原理的に最も重要な論点は「装置がどちらの向きに動作するか」にあります。
それでは、この「悪魔の装置」は果たしてどちらの向きに動作するのでしょうか。
その答を知るためには、装置の子細な仕組みを考えるといった方法では不十分で、
もう少し別の角度からの見方 〜 熱・統計力学や情報理論といった視点が必要となってきます。
本サイトでは、ここで紹介した「悪魔の装置」について、2つの角度から検討を加えています。
1つはパソコンによるシミュレーションです。
シミュレーションによって、熱から仕事への変換が、ある一定の条件下で起こり得ることを確かめました。
つまり、このような装置によって、マックスウェルの悪魔を実現する可能性があるわけです。
シミュレーションの内容については、 >> 計算機実験編 をご覧ください。
もう1つは理論的な側面です。
ここで紹介した「悪魔の装置」には、熱運動の利用を許すような、何か特別な理由があるのでしょうか。
そういった理由については、 >> 理論編 をご覧ください。
理論編の中の、
■ 第二章 1分子気体パズルに挑む
悪魔の装置第一号
悪魔の装置一号の詳細
には、ここで紹介した「悪魔の装置」の説明があります。