計算機実験
1つの仮説
2007/12/20  

さて、以上のシミュレーション結果をどのように受け止めたら良いのだろうか。

1: シミュレーション自体が根本的に間違っている。
2: シミュレーション自体は間違っていないのだが、ワープゾーンを物理的に構成することはできない。
 それゆえ、ここに示すようなマックスウェルの悪魔は実在しない。
3: シミュレーションは基本的に正しい。
 なので、ここに示すようなマックスウェルの悪魔が実在し得る!

この3者のいずれが正しいのか、私には判断が下せなかった。 これを読まれた読者のご意見、ご教示を賜りたく思う。

   シミュレーションは永久機関に成り得るか

もし「マックスウェルの悪魔=第二種永久機関」だとしたら、いかなるシミュレーション結果であろうとも検討に値しないであろう。 ここで行ったシミュレーションは、少なくとも第二種永久機関には成り得ないシミュレーション7 の結果が示すように、このような仕掛けによって無制限に温度差を作り出すことはできないからである。

しかし、もしシミュレーションの結果が正しいのであれば、熱揺らぎの中に一方向のエネルギーの流れを作り出せる可能性がある。 つまり、実現不可能な第二種永久機関と、実現可能なマックスウェルの悪魔は別物だということになる。

第二種永久機関: 温度差を作り出す: 実現不可能
マックスウェルの悪魔: エネルギーの流れを作り出す: 実現可能
どうやら実現不可能と可能の境界は、かなり微妙な場所に位置しているようだ。
改めて今回のシミュレーションからの帰結をまとめると、次のようになる。

熱揺らぎの中に自然に(外部から自由エネルギーの供給なしに)温度差を生じることはできない。 これは熱力学の教えるところである。

しかしながら、熱揺らぎの中に一方向のエネルギーの流れを作り出す方法は存在する。 エネルギーの流れが円環状であれば、温度差を生じることなしに、一方向の流れを作り出すことができる。 これがマックスウェルの悪魔の正体である。

   大胆な仮説

もちろん「こんなシミュレーションどこかが間違っている」として片付けるのは簡単だし、実際どこかに見落としがあるのかもしれない。 それでも、私はシミュレーションの結果を肯定的にとらえ(そっちの方がおもしろそうだから)、考えあぐねた末、1つの大胆な仮説に思い至った。
以下に述べることは、全くの思い過ごしかもしれない。 しかし、一方でそれなりの説得力もあるのではないかとも、私は感じている。 この思い付きをくずかごに葬り去るのは、あまりにも惜しい気がしたのである。 以下の「大胆な仮説」は、心して読んで頂きたい。

「マックスウェルの悪魔」「熱力学の第二法則」は両立する。
いかなる条件のもとで両立するのか。それは 「マックスウェルの悪魔から、いつエネルギーが取り出されるのか、その時刻を予め言い当てることができない」 場合である。

これまで(100年以上もの間)考えられてきた、熱力学第二法則に反するマックスウェルの悪魔は 「いつエネルギーが取り出されるのか、その時刻を予め言い当てることができる」 性質のものであった。 「時刻を予め言い当てることができる」マックスウェルの悪魔は、物理的に実現不可能である。

ところが「時刻を予め言い当てることができない」マックスウェルの悪魔は、熱力学第二法則に反する訳ではない。 そのような「時刻が不確定な」悪魔であれば、物理的に実在する可能性がある。

あまりにも飛躍した内容に面食らったかもしれない。 とにかく上記のような「大胆な仮説」を採用すれば、シミュレーションの結果は説明できてしまうのだ。

上の仮説の内容を詳しく説明するには、残念ながらかなり多くの紙面を必要とする。 しかもそれは、単なる思い過ごしである可能性も高い。 それでも説明を読もうという奇特な方は、理論編 の方を参照されたい。 そんな説明を読まずとも、悪魔を否定する明確な理由をご存じの方は、考え違いを(なるべく親切に)ご指摘いただければ幸いである。

以上にて、マックスウェルの悪魔のシミュレーションを終える。

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