序章 甦るMaxwellの悪魔
「不確定分子モーター」とは
2006/08/15  

   Uncertainty Molecular Motor

本論の内容は、
  「分子の熱運動を利用可能なエネルギーに変える仕組み」
についての考察である。

このような仕組みは「第二種永久機関」と呼ばれており、物理的に実現不可能とされていた。
しかし、ある条件を付与すれば、この不可能が可能に転ずる。
〜 少なくとも、熱力学の法則に反しなくなるので、可能性を否定する理由がなくなる。

その条件とは、
  「作用する時刻が不確定」
ということである。
つまり
  「分子の熱運動を、作用する時刻が不確定であるような、利用可能なエネルギーに変える仕組み」
の実現は、決して不可能ではない。

詳しくは本論で述べるが、この「作用する時刻が不確定な仕組み」はエントロピー増大則に反しない。 従って、この仕組みは「第二種永久機関」ではない。 実のところ、この仕組みには原理的に多くの制限が課されることになるので、従来の意味での永久機関とは言い難い。

そこで、本論では永久機関という言葉を避けて、この仕組みのことを
  「不確定分子モーター」
あるいは単に「分子モーター」と呼ぶことにした。
「不確定」とは、時刻が不確定という特徴を示したもの。 「分子モーター」とは、分子サイズの原動機のことである。

「分子モーター」と言えば、一般には生体内での運動を司る微小な機関を指し示すことが多い。 本論に登場する分子モーターは架空のモデルであり、生物の持つ分子モーターと必ずしも同じではない。 しかし、架空の不確定分子モーターが、実在の生物の持つ分子モーターの解明に何らかの手掛かりを与えるかもしれない。
  「生物の中には Maxwellの悪魔が住んでいた」
そう思うと、何とも愉快な話ではないか。

少し以前であれば、ここで言わんとするような類のお話はどこにも持って行き場が無かった。 今日ではインターネットを通じて誰しもが言いたいことを言える。 思えば良い時代となったものである。

それでは、長い話になるが、どうか最後までお付き合い願いたい。

不確定 (Uncertainty)
不確定と言えば量子力学に登場する「不確定性原理」を想起される方が多いと思うのだが、「不確定分子モーター」はそれとは何の関係もない。 本論では古典的な力学と統計力学しか扱わないので、現代的な視点からすれば実に地味な感がある。 量子力学はもとより、素粒子論や宇宙論、時空の歪みや複素多次元空間といった「難解な最先端の物理」は一切登場しない。 期待している向きには悪しからず。
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