確率共鳴は分子モーターに寄与し得るか? 答えはNo! 確率共鳴のような現象が実際に在るのは事実だし、 ノイズの分離に有効な手段というのも本当だろう。 後から加えるランダムなノイズに、どれほどの「熱力学的な価値」が残されているかがポイント。 たとえば、そよ風は在る程度ばらついていても依然として風力発電の動力源となる。 しかし全くでたらめな分子の風には「熱力学的な価値」が少しもない。 分子モーターの動力源として考えているのは「全くでたらめな分子の風」の方である。 これは、単純には(不確定という考え方無しには)エネルギー源として寄与しない。 確率共鳴現象を大局的に見れば、 「系に投入する自由エネルギー(あるいは情報)がランダム性を帯びている」 というだけに過ぎない。 ランダムなノイズに含まれている「熱力学的な価値」を投入して、目的の操作、 ノイズの除去等を行っているわけである。 「脈流」といったエネルギーの流れを考えてみよう。 脈流には、値の上下のばらつきはあるが、全体としては一方方向に流れている。 このとき 値の上下:価値のないランダム成分 全体としての一方方向の流れ:価値のある自由エネルギー成分 ととらえることができる。 --> この成分分けは一見定式化できそうだが、実は意外に難しい問題をはらんでいる。 --> 規則性とは何か? ランダムの定義は何か? --> 一般的なランダムの定義は難しいが、ある特定の場合について規則性があることを 言うのは難しくない。 とりあえず ・フーリエ変換して、特定の波長にエネルギーが集中している ・一方方向に流れている、積分して0にならない --(これって不確定モーターの主張に反していないか?) ・信号を圧縮できる といったものは規則性あり、何らかの「熱力学的な価値」を有している。 あるランダムなノイズが「熱力学的な価値」を持つかどうかは、温度にもよる。 ある温度Tの下でまったく無価値なランダムノイズが、 より低温のT2と接触すれば、そこから価値を引き出すことができるだろう。 要するにこれは、温度差の下で動く通常のエンジン(カルノーサイクル)のことである。 結局のところ、ランダムな熱運動が利用できるのは 「相手の出方に合わせたON-OFF」であり、 「ランダムなON-OFF」ではない。 ランダムな熱運動にランダムなノイズを加えたところで、出てくるのはランダムな結果である。 結果がランダムで無いように見えるのは(確率共鳴のような現象が見られるのは) 後から加えるランダムなノイズに、まだ有効な自由エネルギー(情報)が含まれているからに他ならない。 「相手の出方に合わせたON-OFF」を採用すると、その結果は「相手の出方通りのランダム」となり、 必然的に不確定のアイデアへと導かれる。 確率共鳴のアイデアで使えるのは ・ON-OFFを加えてランダムを制す という点、 分子モーターとって使えないのは ・ランダムにON-OFFする という点だろう。 **** 例え話的なメモ 信号がある道路で、遅い車と速い車が走っていたとする。 在る程度以上速い車は信号1回分を通り抜けるので、1ブロック先に進める。 遅い車は、多少の速度差があっても同じ信号待ちにひっかかる。 これによって早い車と遅い車を分離することができる。 車が対象となる信号、信号のNO-OFFがランダムなノイズ、と考えれば このお話は確率共鳴の一面をよく表している。 ***** ラチェット系のうそを見抜くには 極端な話、ラチェット1つだけ取り出してみればわかること。 1つのラチェット、つまり一枚の板を斜めに持ち上げるのに力を要するはず。 ここで要する力=板の上に乗っていた質点を持ち上げる力=質点が転げ落ちて散逸する力 である。 板の持ち上げ方と、質点の運動が全くのランダムであれば、ランダムノイズは何の寄与もしない。 持ち上げ方、あるいは質点の運動に少しでも規則性があれば、その規則性の分だけ有効利用ができる。 => 別冊サイエンスに挟んだメモ参照。