筋肉の熱効率、あと F1-ATPase 筋肉の熱効率が実際にどの程度なのか知らなかったので、調べてみた。 以下の記述を丸写し * バイオメカトロニクス -- 講義資料(.pdf) http://mi2mm00.eng.shizuoka.ac.jp/matsumaru2/lecture/02biomec(06)621.pdf *** エネルギー変換の効率 ■ATP加水分解反応 ワ Gibbs自由エネルギーの変化 = 約-60[kJ・mol-1 ] (エンタルピー変化にエントロピー変化を考慮した系のエネルギー変化) ATP1モルの加水分解で可能な力学的仕事量の最大値 ワ ATP加水分解速度=1.5[μmol・g-1・s-1] ワ Gibbsエネルギ消費速度 1.5×10^-6×60×10^3 = 9.0×10^-2[J・s-1] ■筋肉の等張性収縮 ワ 短縮速度と張力がそれぞれ最大値の1/3で,出力最大 ワ カエルの脚の筋肉 最大張力 Po = 20[N・cm-2] 最大短縮速度 Vo = 2lo[s-1] <- これ'2'です。loってなんだろう? ワ 筋肉1[cm3](≒1[g])あたりの仕事率 Po×1/3×Vo×1/3=4.4×10-2[J・s-1] ワ エネルギー変換効率=49[%] (カメで最大80[%]) 「カメで最大80[%]」が気になったので、もう少し調べてみた。 「筋肉の動きを探る」という本の中に「新イソップ物語」と題して、 カエルとカメの比較が載っていた。こちらの数字だと エネルギー効率 カエル 45% カメ 77% おまけ: 我が家のカメ。 http://brownian.motion.ne.jp/memo/image/Turtle.png 冬の間はぴくとも動かず、えさも全く食べない。 だからといって夏にぶんぶん動いている、というわけでもない。 本当に効率いいんだなって気がするよ、おまえは。 比較のため、発電所の熱効率を調べると 電気事業連合会 - 火力発電所熱効率の各国比較 http://www.fepc.or.jp/thumbnail/env-report2006/ref02.html 下は 28%強から、上は 44%弱まで。 「日本の火力発電所の熱効率は世界のトップレベルの水準にあります。」 つまり、効率のよい発電所はカエル並み。 「筋肉はとても熱効率が良い」という通説は、発電所やエンジンのような 人工の熱機関と比較して、という意味だった。 生物の中で比較した場合、特に次の ATPase に比べれば、 アクチン-ミオシンモーターは必ずしも高効率とは言えない。 *** F1-ATPase モーターのように回転しながらATP合成を行う驚愕の分子。 ここは下手な解説を加えるより、このサイトを見よ。 * ATP合成酵素 − 回転するナノ分子モーター http://www.res.titech.ac.jp/~seibutu/main.html?right/~seibutu/projects/f1_j.html なんと効率ほぼ100%、ということは、可逆ってことか。 事実、逆回しにすればプロトンを汲み出すポンプとして働く。 ブラウン運動の利用に都合のいい箇所だけ抜粋すると、 ・・・ 自由エネルギーの濃度項を含んだ部分は、反応の進行に伴い増大するエントロピー(の一部)×温度に対応しており、 この項に相当するエネルギーはまわりの溶媒の熱揺らぎから吸収するものである。 ・・・ この場合はエネルギー源は100%熱揺らぎ、というべきものである。 まわりの溶媒から熱を奪って仕事にしてしまうと、まわりの溶媒のエントロピーが減少して 熱力学の第二法則に反しそうに見えるが、このエントロピー減少はプロトンの濃度差を 解消することによるエントロピー増大に補償されて、全体として熱力学第二法則との整合性が保たれる。 ・・・ この詳細ってどうなっているのだろうか。聞いたら教えてくれるかな。 ATP合成酵素はプロトン濃度差を利用して駆動しているのだが、 ミクロな視点に立ってみるとATP合成酵素がプロトン濃度差を数え上げて”知っている”はずがない。 ランダムに(長時間統計をとれば差があるのだろうが)やってくるプロトンをつかまえて、 駆動力として利用しているとは、これいかに。 ということで、ATP, ADB, Piの濃度を変えたらどうなるか、という研究が行われているらしい。