統計力学の例外? 力学系(Hamiltonian系)において、ある状態が実現している平均時間と、その状態のポテンシャルの関係について。 簡単な例で 「山の上に留まっている時間」と「山の麓にある時間」の比は、「山の高さΔ」で決定される、というのが普通の考え方。 しかし、例えば体系に多数の「隔壁」を挿入して、体系の状態遷移を止めてしまうような「スイッチ」があったらどうか。 まるで時間が止まったように、特定の状態を「凍結状態」で長時間保持することができるだろう。 問題は、この隔壁スイッチをどのようにコントロールするかである。 隔壁スイッチを全くランダムに上げ下げしていたのであれば、結局のところ「山頂ー山麓の時間比率」は、隔壁が無い場合と何ら変わりないであろう。 隔壁スイッチをコントロールする系〜ここではコントロール系と呼ぼう〜も、対象となる力学的体系と同様に熱ゆらぎの影響を受けると考えれば、やはり「山頂ー山麓の時間比率」に隔壁スイッチが影響を与えることは無いであろう。なぜなら、いかに堅固なスイッチ(スイッチのNO,OFFにかかるΔEが大きな値を持つ)であっても熱ゆらぎの影響を受けるのであれば、結局はランダムにON、OFFするからである。 しかし、コントロール系が対象となる力学的体系と同様の熱ゆらぎを受けねばならない、とする制約は無い。 重要な点は「隔壁を挿入する」というやりとりは、エネルギーのやりとりを必ずしも必要としていない点だ。 つまり、対象となる力学的体系とコントロール系の間では、互いに影響を与えるものの、エネルギーのやりとりは全く無い。 なので、対象となる力学的体系が熱ゆらぎにさらされていても、コントロール系はゆらぎのない理想的な力学系として振る舞うことも十分可能なのである。 たとえば、隔壁はY方向に挿入、隔壁によって仕切られる対象はX方向の運動とか。 対象となる力学系に隔壁を入れることができたように、コントロール系にも隔壁を入れることを考える。 力学系 -> コントロール系の隔壁を操作 =:: ゲート コントロール系 -> 力学系の隔壁を操作 =:: ハンドル ※「ハンドル」という用語は一般的ではない。いっそ刺激-反応という言葉の方がよいかも。 Stimulus Response 今ここで、対象となる力学系が山の上に来たときにコントロール系のゲートが開くようにする。 ゲートが開いたら、隔壁が下がって力学系が「凍結」する。 その後、コントロール系は非常に長い時間かけて長い経路を往復したとしよう。 その長い時間の間、力学系はずっと「凍結」されることになる。 * コントロール系 G = Gate : 対象となる力学系が山の上にあったときに開く H = 対象となる力学系の隔壁をON,OFFするスイッチ <-隔壁ON - - 隔壁OFF -> |--------------------------- 長〜い -------------------------------|H|G|-----短い----| <--------------ここの往復には10万年かかる ------------------------>|H|G|<-ここは一瞬-> 対象が山の上にある時間は、少なくとも20万年加算される. 対象が山麓にあるとき。 山の上に来た瞬間を逃さぬよう、高速スキャンしている。 このような装置によって結局何が起こるのかというと、「力学系の山頂に留まる時間が非常に長くなる」。 つまり、山の高さΔE以外の、「コントロール系」という仕組みによって「山頂ー山麓の時間比率」が変えられたことになる。 むろん、隔壁が下がっていた間、系は「凍結」していたのだから、普通に時間が経過したのとは意味合いが変わってくる。 たとえば凍結中は系の持つ高いポテンシャルが外部に影響を与えることもないし、系が外部から影響を受けることもない。 つまり、この長い待ち時間は本当に「差し引いて」考えることができるので、通常の統計力学が「間違っていた」わけではない。 とにかく、「コントロール系」といった仕組み特定の状態の時間を引き延ばしたとしても、物理的に間違いではないのだ。 (すごくつむじ曲がりなへ理屈に思えるかもしれないが。) 対象となる力学系+コントロール系の全体で考えれば、コントロール系が「長〜い」時間を費やしている部分は莫大な「場合の数」が含まれていることになって、場合の数としてのつじつまが合いそうである。 しかし、先に述べたように、コントロール系は必ずしも対象となる力学系と等温である必然性は無い。 例えば以下の様な | <- ● -> ここではすごくゆっくり信号ボールが往復する -----------------\ \ 坂を上がって、信号のボールの速度が限りなく0に近くなる \ \ \ ------------|H|G|----| 仕組みによって、比較的短い長さの経路と、1個のボールによって「膨大な場合の数」を吸収することもできるだろう。 コントロール系の側には「同じ温度」という条件が適用できないため、単純に場合の数を数えることは難しい。 以上によって何が示したかったのかというと、 「コントロール系といった仕組み、隔壁のようなスイッチを用いて、特定の状態に置かれた時間を非常に長く引き延ばすことができる」 ことである。 (平衡)統計力学は、速度についての規定を述べてはいない。 なので、極端に言えば「隔壁によって切る」ことによって、いくらでも速度を遅くすることはできる。 特定の状態を非常に長い時間保ったとことで、統計力学に違反はしていないのである。 注意すべきは、山の上に「永遠に」状態を留めておくことはできないことである。 山麓には、やっぱりいつかは落ちてくる。ただ、その時間を意図的に変化させることは十分可能だ、 ということだ。 不確定永久機関の結果が、山の上に留まることがあったとしても不思議はない。 その結果は理論的には「一時的なもの」であり、実用的には十分耐える程のものであろう。 ------------------------------------------------------------------------ 不確定分子モーターの出力結果の問題 不確定分子モーター自動車は山頂で停止することができるか? (上の繰り返しになるが、忘れないために書いておく) 不確定分子モーターが平らな円環上を回ることはわかった。 さらに、でこぼこのある円環上であっても回ることもわかった。 しかし、実用的に役に立たせようとすれば「山を登らなければ」意味がない。 分子モーターがちょうど山頂に来たときに停止したら、山を登ったことにならないか。 ・山頂での停止は可能か? ・もし可能であれば、結果として第二法則に反していないか? 山頂で止まるには、例えば「自動車の動きを見て、ちょうど山頂に来たときにブレーキをかける」運転者が必要。 自動車 = 対象系 運転者 = コントロール系 としよう。 ここで、コントロール系に要する自由エネルギーが、自動車が山を登る以上かかてしまうとすると意味がない。 もし、対象系もコントロール系も同じ熱ゆらぎにさらされていたなら コントロール系に要する自由エネルギー = 自動車が山を登る自由エネルギー となってしまう。 (山頂でかけたブレーキを、熱ゆらぎに影響されずに踏み続けなければならないので) しかし、コントロール系は熱ゆらぎとは無縁な「理想的な古典力学系」だとすると、 いくらでも望みの長さだけ「ブレーキを踏み続ける」ことができる。(というのが上の説明) ただし「永遠に」だけはできない。 可逆部品で構成されているならば、いつかはブレーキを外すときが来るはず。 この「山頂の自動車」のメカニズムは、単体の分子モーターの仕組みとほとんど同じである。 単体の分子モーター: コントロール系が対象となる分子を観測し、分子が入ったら望みの位置にピストンを動かす 山頂の自動車 コントロール系が対象となる自動車を観測し、山頂に来たらブレーキを踏む その後のコントロール系の動作 分子モータ: 巧妙に次のサイクルに続けている 山頂の自動車: ここが問題、、、可逆部品だけでコントロール系が作成されていれば(そして有限であれば)、 いつかは「ブレーキを放すとき」が来るはずだ。 -- 1つだけ、可逆部品だけから成る一方通行の作り方がある。(ただしちょっと問題はあるのだが) -- もし対象が大きさを持たない質点の運動だとすれば。 -- 正方形の箱に1カ所だけ穴を開け、質点を「無理数の角度で」放り込む。 -- 質点が再び同じ穴を抜け出してくるのは「角度が有理数の場合」に限られるので、 -- 質点はいつまでも穴から出てこれない。 -- なので、一度放り込んだら出てこられない一方通行のできあがり。 ... この仕組みは「点」と「実数の連続性」を用いているので、物理的には存在しないと思う。 まとめると、、、 「コントロール系」を多数配備することによって、熱運動している対象系を意のままに導くことができる。 ということ。 イメージとしては 単体の分子モーター -> 分子モーターで走る自動車 -> 自動車の位置エネルギーを利用した、より上位のメカニズム -> ... といった感じに、多数のコントロール系が階層を成している。 => さらなる次の問いかけ 階層を成した方が、望みの状態を実現するまでの時間が短くなって、利用者にとっては有利なのだろうか? もし時間短縮が図れるだとすると、そのメカニズムはいかに? => コントロール系の頑健性について コントロール系が「理想的な古典力学系」ではなかった場合はどうなるのか? 少しでも熱ゆらぎの影響を受けたならば、コントロール系の機能は完全に麻痺してしまうのだろうか? -- そんなはずはない。熱ゆらぎの影響を受けた分だけの情報を補えば、完全停止までは行かないだろう。