第二法則との調和問題 ● 問題0:分解能を利用した永久機関 「統計力学の例外か.txt」にあった坂を応用した永久機関. | <- ● -> ここではすごくゆっくり信号ボールが往復する -----------------\ \ 坂を上がって、信号のボールの速度が限りなく0に近くなる \ \ \ --| | | | | |●| | |--| 坂の下でN通りに広がったボールを、一旦坂の上に乗せて幅をうんと細くする。 細く絞ったところでボールを箱に入れ、箱に入れたまま下にもってくる。 そうすれば、N通りに広がった範囲を1通りに戻すことができるのではないか。 => これはつまるところ、 「連続量の状態の違いを、いくらでも小さな範囲に押し込めることができる」 ところから生じるパラドックス。 量子力学にまで遡って考えれば下限値が存在するので、坂の上で限りなくゆっくりにすることはできない。 坂の上でつかまえたボールには、幅が小さくなってもN通りの状態が存在する。 この誤差は、坂の下にもってきた際に累積することになるので、 悪くすれば2回目のサイクルでボールをつかまえることができなくなる。 ● 問題1:果たして円環レール上の分子モーターは、本当に場合の数を満たしているか? 等ポテンシャルな円環レールの上を運動する、不確定分子モーターの車は、 外部に仕事をしていないし、ある瞬間、どこにいるかも特定できないので、 第二法則は破っていないように思える。 しかし「右なら右に、常に一定方向に回る」という性質は、やはり情報を生み出し続けているのではないか。 例え分子モーター車に磁石をとりつけ、周囲にコイルを並べて発電機を作ったとする。 この発電機から生じる電流は、車の動きが不確定なので、確かに整流化されている電流より利用価値は低い。 しかし、この電流が本当に何の情報も有していないのだろうか。 まったくの熱ゆらぎ電流と比べれば、何らかの特性を持った(フーリエ解析すれば、特定の周波数成分に偏った) 電流が取り出せるのではないか? => これは逆に、いかなる周波数成分の偏りもない様に分子モーター車は運動するのだ、 という条件として解釈することができるだろう。 「右回り」という1bitの情報と、回り方(周波数成分)には何の関連もないはず。 熱運動がそのまま分子モーター車の運動に転じたとするなら、これはうなずける話だ。 ● 問題2:砲弾を撃ち合うイメージで矛盾は生じないか? 2つのポテンシャルの谷A,Bの中に沢山の砲弾が入っている。 砲弾は熱運動で、ごく希に反対側の谷に飛んでゆくことがある。 何もしなければ、2つの谷の砲弾数は等しく、温度も等しくなるはず。 ところが、谷Aの中に不確定分子モーターを入れて、通常ではごく希にしか飛ばない砲弾を より高い頻度で谷Bに打ち込むようにする。 すると、Bの温度の方がAよりも高くなるではないか? 確かに、不確定に砲弾を打ち込むのであれば、ある瞬間に温度差がどれくらい生じるかは不確定となる。 しかし、とにかく差がゼロではない、という点が重要なのだ。 この差を利用して通常のカルノーサイクルを回せば、確定的な情報=利用可能なエネルギーが取り出せないだろうか? => 場合の数で考えよう。 AとBの温度が全くわからない状態0と比較して、 Bの方がAより温度が高い、という状態1は、ちょうど状態0の半分である。 つまり、ここで稼いだ情報量はちょうど1bitなのだ! この1bitとは、最初に「Aの方に分子モーターを置いた」1ビットであり、 円環レールで言うと「右向きか、左向きか」の1ビット初期投入時の1bitである。 確かに、カルノーサイクルを回せば幾許かのエネルギーを取り出すことはできる。 しかし、そこにかかっている情報量は「取り出せる」という1bitだけなのだ! 大きさについては全くわからない(最も情報量が少ないような分布となる)。 ● でも変だぞ、最初に置いた1bitは1回だけなのに、 エネルギーの取り出しの方は、今回も取り出せた、次回も取り出せた、、、と 何回でも取り出すことができる。 つまり、この装置全体からは、やはり無限bitの情報量が取り出されているとは言えないか? => わかんない。いいような、いけないような、、、 ● あと、このサイクルを極限まで回すと、とにかく1つの定常状態に落ち着くはずだ。 (期待される温度差がほぼ一定とか) 何もない平衡状態 <=> 分子モーター有りの定常状態を行き来すれば、とにかく確定した情報が 無尽蔵にとれるはずではないか。それはおかしくはないか? => とにかく定常状態が、平行状態の半分、ってことなら1bitと豪語できるのだが。 無理がありますかねー? どうも、ただで「平衡状態 <=> 分子モーター有りの定常状態を行き来」することができないのではないか、 という疑いが出てきた・・・ 仮に、ただで「行き来」ができない、と仮定すれば、 不確定分子モーターは世界全体に対して1bitだけ提供している、 としても矛盾なしと思うのだが、、、どうだろうか。 ==> ★ 結局のところ、許容されるのは従来第二法則で言われている通りである。 ・確定的に温度差ができるのは不可。 ・熱平衡状態以外の分布に落ち着くのは不可。 -- 以下は「逆転問題の回答.txt」の続きでもある。 可能、不能の直感的な境界線は「直線か円環か」の違いである。 直線とは 時間発展(後退)すること。元の状態から最終的な状態へ、一方的に進行すること。 円環とは 全ての状態が結局は一巡して元にもどること。 例えば、等温の2つの部屋A,Bを用意して、Aの温度をBよりも上げる、ということはあり得ない。 また、長時間に渡って観測したとき、A>Bとなっている時間が長い、といったこともあり得ない。 砲弾撃ち合いのイメージで考えると、不確定分子モーターによって、とにかくA>Bとすることはできない。 砲弾を A->B に打ち込んでも、必ず B->A の戻りが同じだけあるはず。 ところが、2つの谷A,Bの間に、砲弾のやりとりとは別ルートでエネルギーをやりとりする穴を設けると状況は変わってくる。 別ルートを設けた場合、系全体は A -> 砲弾 -> B -> 別ルートの穴 -> A といった巡回経路を確保できる。 こうなると、この系は「直線」ではなく「円環」になる。 円環になったときには、A -> 砲弾 -> B -> 別ルートの穴 -> A の流れが逆向きよりも優先して起こる。 このとき注意すべきは「一方方向に流れたからといって、A>Bとなるわけではない」ということ。 流れが生じたとしても「分布は変わらない」のである。 また、一巡にかかる時間も予測できない。 つまり、何らかの規則的な周期を見出すことはできない。 ここで、別ルートの穴を少しづつ小さくしていったらどうなるか。 すると、一方方向の流れの速度がだんだん遅くなり(より正確には、一方方向に流れる確率がだんだん下がってゆき)、戻りが増えてきて、穴が閉じるとついに行きと戻りが等しくなる。 つまり、円環 -> 直線 へとなるのである。 円環の一巡する経路のどこかが切れてしまうと流れが止まる、という性質は、ちょうど電線が切れると電流が止まってしまうようなもの。 もし一巡がかなり長い場合には、遠隔地の状況が全体に反映されるという面白い性質を持つ。 たとえ局所的に分子モーターが動いたとしても、うんと先の方で円環の道が途絶えていたなら、大局的には分子モーターは役割を果たさないのである。 [結論] 不確定分子モーターが生み出すことができるのは、ただ円環上の「右回り優先/左回り優先」のうちのどちらか1方を選び出すことだけである。 生み出すのはただ1bitのみ、それ以上の情報を生み出すことはない。 ● さて、そうなると結局のところ、この分子モーターで何が為せるのだろうか? ・少なくとも熱揺らぎの下で「右回り」という1bitが保持できる。 ・永続的な結果は望めない。手元に残るのはいつも「刹那」。 円環が形成されていなければならない、ということは「借りたものを必ず返す」という体制が整っている場合のみ、 分子モーターシステムは稼働する。 イメージからすると「大地から生じて、大地に還る」といった感じ。 分子モーターがあれば、単なる熱平衡ではほとんど越えられなかった壁(ポテンシャルの山)を、より短い時間で越えることができる。 熱平衡であれば、確率的に(一巡に時間がかかりすぎるため)ほとんど望みのない山越えを、 分子モーターであれば望みのある時間内に越える可能性が高まる。 要するに、分子モーターとは「一巡のスピードを上げる」装置なのだ。 熱平衡の場合、一巡(あるいは検索)は無作為に、ランダムに行われていた。 分子モーターは、一巡(検索)方法を順序立てて行うように、初期情報を与えて(道を作っておいて)おく、というものである。 その結果、意図する山越え(確率の低い状態)が熱平衡よりも早く実現する。 ただし、状況を山の山頂で留めておくことはできない。 より山頂が一瞬の刹那であるほど、山越えを実現するまでの期間が短くなる、という関係がある。 (故意に山から下りる道を細くすると、円環のルート全体が細くなるので、実現までの時間が長くなる。) [まとめ] 叶えたい望みが「刹那のもの」であれば、分子モーターは大抵の状況を実現してくれる。 「永劫に」叶う望みを、分子モーターは実現してはくれない。 また、望みが「大きいほど」、つまり山が高く、より大きなエネルギーがかかるほど、叶うまでの時間が長くなる。 望みが叶うまでの待ち時間はエネルギーによって決まるが、量子力学的に「エネルギーx時間の最小単位」があることから、 最速の待ち時間は物理的に決まってしまう。 それ以上の速度で分子モーターを使うことはできない。