第五章 第二法則との調和
2006/08/28
もし君の理論が熱力学第二法則に反することがわかったなら、私はもう君に何も希望を与えられない。
その理論は屈辱にまみれて葬られる以外にない。 − A・S・エディントン (The Nature of Physical World) およそ数ある物理法則の中で、熱力学第二法則は特別な地位を占めている。 もしあらゆる知識の中から最も重要なものを1つだけ挙げよと言われれば、私は間違いなく熱力学第二法則、即ちエントロピー増大則を掲げる。 この意見に異議を唱える人は多いかもしれないが、賛同する人もまた少なくないと思う。 マックスウェルの悪魔とは、この熱力学第二法則に真っ向から対立する概念である。 少なくともこれまでは対立するものと信じられてきた。 しかし、本当に「悪魔の存在=熱力学第二法則の否定」なのだろうか。 本論で私が最も腐心したのは、いかにして「悪魔と第二法則を両立させるか」ということだった。 そして、どうやら両者には共存の道があることが分かってきたのである。 この章では、なぜ「時刻不確定な悪魔」が熱力学第二法則に反しないのかについて検証する。 もし第二法則に反しないのであれば、悪魔には論ずるだけの価値がある。 検証の結果、やはり第二法則に抵触するようであれば、悪魔は葬り去られるより他にない。 私の考えの及ぶ限りにおいて、悪魔は第二法則に抵触しなかった。 果たして本当に悪魔と第二法則は共存できるのか。 結局のところそれは、本章を読み終えた読者自身の判断にお任せすることになるであろう。 |